猫って言うのは気まぐれなもんなんだぜ?

気まぐれに好きになったり嫌いになったりして、気まぐれに居場所を変えて。

―― だから俺は本当は・・・・















nature
















ハートの国の遊園地はいつでも大概賑やかだ。

こんな滅茶苦茶な国なのに普通の家族団らんな光景が広がっているのも妙な感じがする、と前にアリスが言っていたっけ、と思いながらボリスは家族連れの間を縫うようにして歩いていた。

するり、するりと人にはけしてぶつかることもなく瞬く間に人混みを抜けて。

時々、子どもがじゃれついてきたりするが、相手にしている暇はないのでさっさと避けて歩き続ける。

探しているたった一人の姿を求めて。

サラサラの手触りの良い茶色の髪が目の前を行き過ぎた気がして、さっと目を動かすが生憎見間違いだったらしい。

(あー、どこいったんだよ。)

自分の用事から帰ってきてから、もう2時間帯ぐらい探し続けているのに一向に目当ての人が見あたらなくてボリスは少し苛立っていた。

真っ先に彼女が居候しているゴーランドの屋敷の部屋に行ってみたのに、そこには不在。

従業員に出かけたと聞いたので遊園地の中を探し始めたのに、どこにも彼女がいない。

遊園地の外へ行ったのかも知れない、と考えてボリスの胸に苦い物が広がる。

アリスは余所者ということもあって、どこの勢力でも特別扱いだし安全なのは確かなのだが、ボリスにとってはそれはイコール別の心配だ。

アリスは特別なのだ。

だからみんなに好かれる。

というか、好かれるを通り越してアリスに特別な好意を持っている奴も多い。

要するに嫉妬と言われてしまえばそれまでだが、ボリスにとってはたまらない話だ。

(くっそ)

顔をしかめながらますますボリスの足は速くなる。

早く、早く、会いたい。

会って、顔を見て、側にいて、触れたい。

焦燥に駆られるように歩きながら、ふとボリスは妙におかしな気分になった。

以前はこんな風に何かを必死で求めるようなことはなかった、と思ったからだ。

アリスに知り合う前は、何となく気が向いたことをしていた。

それがごく自然なことで、その時にできるその時にしたいことをして過ごしていた。

だから焦ったりすることは稀だったのに、今は焦りっぱなしだ。

(らしくない、かな。)

きっとゴーランドに今の心中を打ち明けたら、目玉が飛び出るほど驚いていうだろう、「らしくない」と。

でも、ボリスの足は止まらないし、焦る気持ちも収まらない。

締め付けられるような焦燥感にせき立てられながら遊園地に裏手に近い湖の畔まできたところで・・・・ボリスはほっと息を吐いた。

「・・・・いた。」

思わず声が零れて、その後にあれほど強かった焦燥感に取って代わるように安堵が広がる。

湖の木に寄りかかるようにしている、探していた人を見つけた途端に。

「アリス?」

そっと近づいて後ろから声をかけてみたけれど、返事はない。

「?」

不思議に思って前へ回ったボリスは、くすっと笑いを漏らした。

木により掛かったまま、アリスが眠っていた。

それはもう気持ちよさそうに。

その膝の上に本がのっているから、ここへ来て読書をしている内に眠ってしまったのだろう。

規則正しい寝息を立てて眠るアリスをボリスは見つめる。

探している間ずっと頭に思い浮かべていた姿だ。

アリスを起こさないように肩からこぼれ落ちた茶色い髪を少しだけ梳くと、さらさらとした感触に頬が緩む。

人差し指の背で撫でた頬は頭の中で思い描いていたより柔らかで。

「・・・・かわいい」

アリスが起きていたら苦い顔で(もちろん照れ隠しだと丸わかりなんだけれど)「よく言えるわね」と言いそうなほど甘い囁きが零れた。

(でもさ、違うんだぜ?「よく言える」んじゃなくて、「言わないと」おかしくなりそうなんだ。)

幻のアリスの声に言い返してボリスは目を細める。

アリスは自分のことを根暗だとか、平凡だとか、性格が悪いだとか言う。

別にそれの全部が全部間違ってるとは言わない。

(斜に構えたところあるし、言葉とかきついしね。)

でも、アリスは同時に真面目で優しくて意志が強い。

彼女の心臓の鼓動のように強くて、不安定で暖かい。

だから彼女の側は片時も離れたくないほど居心地が良くてしょうがないのだ。

そしてそう言う程に戸惑ったように眉を寄せるアリスが。

(ああ、もう・・・・)

「かわいすぎ。」

(言葉にして外に出していないと、心の中が破裂しそうなほど可愛くてしょうがない、なんて言ったらきっとまたあんたは顔をしかめるんだろうね。・・・・赤い顔でさ。)

くすりと笑ってボリスは眠るアリスの隣に座った。

そしてゆっくりとアリスの頭を自分の肩にのせる。

「・・・ん・・・・・」

ことん、と頭が乗った時に耳元で零れたアリスの声に一瞬ゾクッとしたけれど、それはやり過ごすことにした。

起こして思う存分アリスに触れるというのも悪い考えではなかったのだけれど、今はこのままでいたかったのだ。

アリスの体温が直接伝わってきて、それがあんまりにも気持ちが良いから。

「・・・・ほんと、らしくないんだけど。」

こんな風に心も体もアリスのことばっかり望んでいるなんて、猫らしくないのかもしれない。

「でも、まあ、いっか。」

アリスの頭に頬を寄せて柔らかい髪の感触を頬に感じながらボリスは気持ちよさそうに目を細めたのだった。

















―― 気まぐれな猫のはずなのに、あんたの隣しか居たくなくて、あんたしか好きじゃなくて、あんたばっかり大好きなんて猫らしくないかも。

でもまあ、・・・・俺らしいからそれでいいよね?




















                                         〜 END 〜
















― あとがき ―
何が書きたかったのっていうツッコミはなしの方向で(^^;)
ボリスイベント中の「こんなの俺らしくない・・・・困る。」のセリフに悶絶したものですから。